英語力について 科学の分野での議論の場は学会です。とくに世界中の科学者が集まる国際会議はその貴重な場です。ドイツのマックスプランク研究所に留学していたとき、研究所内で学会発表のリハーサルがありました。リハーサルをわざわざやるところなどは、日本とドイツで共通です。このとき、留学先のボスであるリューレ博士が、大学院の学生にこう指導していました。
「今度の会議は、一人あたりの発表時間が10分、質疑応答が5分の計15分だ。しかし、10分間も発表に使ってはいけない。むしろ8分ぐらいで終わった方が良い。そうすると、質疑応答の時間を2分増やして7分にできる。質疑応答の方が発表よりはるかに大事だ」
これは、欧米人の会議に対する基本的な考え方をあらわしています。すなわち、会議の目的は質疑応答にあるのであって、発表はその題材にすぎないのです。日本人が考えがちな「質疑応答はできなくてもよいから、とにかく発表だけをこなせばよい」という考え方とは大きく異なります。議論の時間の方が重要なのは、議論によって真理に到達するソクラテス以来の伝統に由来しています。この議論重視の欧米人の視点から見ると、日本人の発表は多くの場合、英語の能力が不十分なので、評価が低くなります。日本人の研究が海外で評価されにくいひとつの理由はここに原因があります。
国際会議での日本人の特徴の一つは英語力が極めて低いことです。日本の一線級の科学者であれば当然英語もよくできるだろうと考える方も多いかもしれません。たしかに平均的な日本人よりはよく英語が理解できるのですが、国際会議に参加する諸外国の研究者たちのレベルから比べるとかなり会話能力が低いのが実情です。
英語ができないのは、日本語と英語の文法と発音の体系が大きく異なることに原因があります。日本の現在の学校教育でその差を埋められないのは周知の事実です。英語の能力を測るテストとしては、TOEICがありますが、個人的体験をもとに判断すると、TOEICで700点ぐらいが国際会議に出席するための最低のラインで、800点ぐらいでちぐはぐの少ない質疑応答がこなせるレベル、900点ぐらいでかなり自由に意思疎通が図れるレベルだと思います。おそらく日本人の教授・助教授の英語の平均レベルは800点前後でしょう。これに対して、ヨーロッパの博士課程の学生(英語を母国語とする人をのぞく)の英語レベルは900点前後のように思えます。つまり、日本人の教授・助教授の平均的な英語のレベルは、ヨーロッパの学生よりも下だというのが実態です。したがって、自動翻訳機が出現する次の世代までは、ひたすら英語力を身につけることが望まれます。
学生のみなさんが英語を勉強する際に、高価な教材を購入する必要はありません。大事なことは、英語を聞くこと、そして、文章や会話のパターンを暗記することです。NHKのラジオ英会話からスタートして、さらに上位のやさしいビジネス英語などを勉強すればよいでしょう。
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Tackeuchi Laboratory
Department of Applied physics,Waseda University
3-4-1 Ohkubo,Shinjuku-ku,Tokyo 169-8555,Japan