研究室開室にあたって "1"(早大理工学部報 "塔" 69号,1997/7/15発行より)

夢のある研究

 博士前期課程を出てから12年間、富士通研究所に勤務し、化合物半導体の超高速現象の研究にとりくんできました。その間、電子技術総合研究所、マックスプランク研究所、フェムト秒テクノロジー研究機構に各1年間ずつ滞在しました。出身大学を含めるとここ早稲田大学で六つめの研究機関ということになります。企業の研究者として研究テーマ(運動量, dp)に固執すると研究場所(位置, dx)に不確定性が生じるというのが私の持論です(逆に研究場所にこだわると企業のテンタティブな要求にしたがって研究テーマは頻繁に変更を余儀なくされるはず)。

 h ≦ dp・dx ? 

 日本の企業では、ある時期、基礎研究(大学からみた応用研究)の充実が叫ばれました。しかし、市場の自由化などの経済上の理由により各企業は(利潤に結びつきにくい)基礎研究から撤退しつつあります。売り上げに直結する開発に専念せざるをえないというのが現状でしょう。微視的には、今後、大学ではその穴をうめて応用につながる基礎研究を充実させる必要があると感じます。科学技術は人間の夢を実現させる合理的手段の一つですが、マクロには、開発だけに目を奪われずにもっと大きな意味で地球環境を含めた総合的な配慮をもって研究を進める必要があるように感じます。理工学部で学ばれるみなさんは、夢を抱いて科学を志したことだと思います。私自身も、ここ早稲田で、初心を忘れずに夢のある研究をしたいと思います。

Return



研究室開室にあたって "2"(応物・物理会会誌,1997より)

 このたび、伝統ある早稲田大学理工学部に専任教員として勤務することになりました。光栄であると同時に、これからの教育と研究における責任を考えますと、まことに身が引き締まる思いが致します。とくにこれまで社会に幾多の有為の人材を輩出してきた応物・物理教室の諸先輩の伝統を損なうことのないよう微力ながら努力したいと願っております。まだ、スタートしたばかりの小さな一研究室ではございますが、応用物理会・物理会の皆様のご支援を賜ればまことに幸いに存じます。

 さて、簡単に自己紹介を致しますと、12年前に博士前期(修士)課程を出てから富士通研究所に勤務し、おもに化合物半導体の超高速現象の研究にとりくんできました。その間、電子技術総合研究所、マックスプランク研究所、フェムト秒テクノロジー研究機構に各1年間ずつ出向、留学などの様々な形態で滞在しました。出身大学(阪大)を含めますと、こちら早稲田大学で六つめの研究機関ということになります。日本の企業では、ある時期、基礎研究(大学からみた応用研究)の充実が叫ばれました。しかし、市場の自由化などの経済上の理由により各企業は(利潤に結びつきにくい)基礎研究から撤退しつつあります。売り上げに直結する開発に専念せざるをえないというのが現状だと思います。企業の研究者として基礎研究を追求した結果が、研究場所の不確定を招いたのではというのが自分自身にたいする評価です(つまり研究場所と研究テーマの一貫性の間に不確定性関係がある。経済環境の変化があったにしても社会における基礎研究の重要性が減少しているわけではありませんので、今後、大学ではその穴をうめて応用につながる基礎研究を充実させる必要があると感じます。また、マクロには、目前の研究開発だけに目を奪われずにもっと大きな意味で地球環境を含めた総合的な配慮をもって研究を進める必要があるように感じます。

 化合物半導体の超高速現象の研究というのは、応用の面では将来の超高速デバイスの動作原理の解明と制御をめざすものですが、同時に人間の到達しうるもっとも高速の現象という点で人類にとっての知的冒険の最前線でもあります。こちら早稲田大学で、初心を忘れずに夢のある研究をしたいと思っております。御指導のほど、どうぞよろしくお願い申しあげます。

Return


Tackeuchi Laboratory

Department of Applied physics,Waseda University
3-4-1 Okubo, Shinjuku-ku, Tokyo 169-8555, Japan